魚類チームの大谷です。昨年12月15日にヨシキリザメ個体№25が死亡いたしました。本個体は、国内最長飼育記録を2019年4月5日に更新(当時252日)、その後飼育記録を大幅に更新し続け、873日の飼育記録でした。

約2年半もの間、毎朝水槽にヨシキリザメの様子を不安ながら観察に行くのが日課でした。ここ数日はそんな作業がなくなってしまってポッカリと心に穴あいたというか、物足りないというか…。とても複雑な感情があります。遅くなってしまいましたが、本個体の死亡経緯についてこの場をお借りしてご報告したいと思います。



ヨシキリザメ№25は、2018年7月27日(金)に志津川湾で捕獲され、うみの杜水族館に搬入されました。搬入時の全長は51.0㎝、体重(推定値)345g、年齢は約1歳前後の個体でした。画像のようにとても小さかったのが印象的です。

死亡時は全長114.0㎝、体重4090gと大きく成長が見られました。この成長率は、野生下でのヨシキリザメの成長率とほぼ変わらない値を示しており、このことからもすくすくと成長していたことが解かります。

本個体は、他のヨシキリザメと比べ何倍もの長い期間を過ごしました。幼魚からの飼育だったこともあり成長が日々楽しみでしたし、たくさんの驚きを与えてくれました。見た目で大きくなったのはもちろん、検診のための採血時の力強さは本当に驚かされました。


飼育初期50㎝程度のころのか細い力が、1mを超えると抑えられないほどに…。まさに海の王者と呼ばれるサメの片鱗を肌で感じられた経験は忘れられません。それだけに今回死亡してしまったのが、残念でなりません。


 本個体は2020年7月の中旬より「遊泳の乱れ」が見られました。遊泳の乱れは吻先や眼、体側を壁・アクリルガラスに擦れる頻度の増加、泳ぐ際の姿勢などにより判断しています。遊泳の乱れがつづくと写真のように擦れによる眼の白濁が現れることも少なくありません。

遊泳の乱れ=体調不良というのはこれまでの飼育経験から推察できるのですが、何故体調不良が起こるか不明な点が多く、その解明のため本個体は定期的な血液検査を実施していました。

その結果、7月からの乱れは脱水によるものが関係していると推定していました。水の中で脱水?と思われる方もいらっしゃると思いますが、海水魚は血液・体液より塩分の濃い海水中にくらしているため、常に体内から水分が抜けていきます。海水魚の多くはこれを防ぐために多量の海水を飲んで、尿で塩分を排泄して脱水を防いでいます(浸透圧調整)。


サメの仲間は、体内に尿素を蓄えて海水と同じ位の濃い血液・体液を作り出し、浸透圧を調整しています。本個体は細菌感染等からこの浸透圧の調整に何らかの障害が起きてしまい、脱水に陥ったと思われます。


これらを踏まえ、8月~9月は脱水及び、脱水の原因の1つと考えられる細菌感染改善の為、脱水そのものを回復する点滴による処置や抗菌薬の投与などを続け、10月には脱水や感染の指標となるいくつかの項目、さらに眼の白濁に少しずつ回復見られました。

しかし、その後も遊泳は安定せず、しばしば水槽底への着底・横転が見られました。


その要因としては、度重なる保定(点滴処置には、画像にあるようにサメを担架に移し不動化させる「保定」ということを行います。本来泳ぎ続け、動きを停めることのないサメには「保定」が大きな負担になったと考えています。)や、投薬等によるヨシキリザメの体力低下があるのではないかと考え、投薬の一部停止や方法の変更、餌の種類や頻度・量の調整を行い、回復を試みておりましたが、死亡数日前に餌の吐き出しや感染・脱水の兆候が再び確認され、回復することなく死亡に至ってしまいました。



 今回、血液検査を定期的に行うことにより、今まで原因不明であった遊泳の乱れや、それらの対処(治療)の方法が少しずつ解かってきたと考えております。その一方で、血液検査上の値では改善が見られたものの、遊泳の乱れが大きく改善することがなく、これについては原因が特定できておりません。現在、飼育中行うことができなかった病理組織学的検査等を行い、遊泳不良の更なる原因究明を行っております。


原因究明や、検査、治療・処置方法の精度向上に取り組むことが、ヨシキリザメの生態・生理解明へとつながり、ヨシキリザメの資源保護・保全などに役立てると考えております。また、長期飼育のチャレンジを通じて、多くの方々にヨシキリザメの魅力と生態についてお伝えし、ヨシキリザメを取り巻く環境意識の啓発につながればと思います。

死亡に際し、全国の多くのファンの皆さま、および関係者の皆さまよりたくさんの反響をいただき、大変驚いていると同時に、改めて本個体が皆さまに支えられていたことを再認識いたしました。
ヨシキリザメ№25は、たくさんの記録を生み、多くの方々にヨシキリザメの魅力を伝えてくれました。このことを無駄にしないためにも、仙台うみの杜水族館では、今後もヨシキリザメの飼育のチャレンジは続けていきます。


最後になりましたが、私たちにたくさんの感動や、驚きを与えてくれたヨシキリザメ№25のご冥福を改めてお祈りします。今頃は天国の大海原でゆっくりとそして、力強く泳いでいることでしょう。